1.はじめに:金融商品分析の意義

金融商品分析は、投資家が正確な投資決定を下すために不可欠なプロセスであり、企業の真の価値を理解するための手段です。特に株式投資では、投資家自身が詳細な企業分析を行うことによって、企業のビジネスモデル、業績、市場環境、競争状況を評価し、その上で企業の株価が適正かどうかを判断することが求められます。

一般的な金融商品分析のステップは以下のとおりです。

a.事前調査

投資家が対象となる企業や市場の基本的な情報を収集します。企業のビジネスモデル、過去の業績、現在の経営状況、市場の状況、競合他社の情報などを詳細に調査します。

b.財務分析

企業の財務状況と財務パフォーマンスを評価します。財務諸表(損益計算書、バランスシート、キャッシュフロー計算書)を詳細に見て、企業の収益性、資金繰り、負債の状況、キャッシュフローの状態などを評価します。

c.戦略分析

企業の戦略的ポジショニングと競争環境を評価します。SWOT分析(強み、弱み、機会、脅威の分析)、ポーターの五力分析などを用いて、企業の競争優位性や市場の動向を理解します。

d.評価と判断

分析結果をもとに、投資家は企業の真の価値を評価し、その結果を用いて投資判断を行います。ここで投資家は、その企業の株価が適正であるか、過大評価されているか、または過小評価されているかを判断します。

これらのステップを経ることにより、投資家は企業の真の価値をより正確に評価でき、その結果として賢い投資決定を行うことが可能になります。

2.企業分析の基本

本章では企業分析の基本について見ていきます。企業分析は大きく分けて、企業の財務分析、事業分析、戦略分析の3つの視点から行われます。

① 企業の財務分析

企業の財務分析では、企業の健全性や収益性を数値を用いて分析します。主な指標は以下のようなものがあります。

a.売上高成長率

企業の成長力を示す指標で、長期的に高い成長率を維持している企業は、新規事業などにより市場を拡大している可能性があります。

b.純利益率

企業の収益性を示す指標で、高い純利益率は高収益をあげていることを示しています。しかし、極端に高い利益率は競争力が低い市場を独占しているか、公正な競争がなされていない可能性もあります。

c.ROE(自己資本利益率)

企業の資本効率を示す指標で、投資された資本に対する利益の割合を示します。高いROEは効率的に運営されていることを示します。

d.負債比率

企業の負債状況を示す指標で、高い負債比率は企業の経済的なリスクを示しています。低い負債比率は安定した経営をしていると言えます。

② 企業の事業分析

事業分析では、企業が現在行っている事業の競争力や市場の動向を分析します。ここではSWOT分析が一般的に用いられます。SWOT分析では、企業の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を分析します。

a.強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)

企業が自身の組織や資源をどのように活用しているかを評価します。

b.機会(Opportunities)と脅威(Threats)

企業の外部環境、つまり市場動向や競合他社の動きなどを評価します。

③ 企業の戦略分析

戦略分析では、企業がどのような戦略を採っているかを分析します。一般的な戦略分析のフレームワークには、ポーターの五力モデルがあります。

a.競争の脅威

企業がどの程度競争環境に晒されているかを評価します。競争が激しいほど、企業の利益率は下がります。

b.供給者の交渉力

企業が供給者に対してどの程度の交渉力を持っているかを評価します。供給者の交渉力が強いと、製品コストが上昇し、利益率に影響を与えます。

c.購買者の交渉力

顧客がどの程度の交渉力を持っているかを評価します。購買者の交渉力が強いと、製品価格が下がり、利益率に影響を与えます。

d.新規参入の脅威

新規に市場に参入する企業が現れる可能性を評価します。新規参入者が増えると市場シェアが分散し、利益率に影響を与えます。

e.代替品の脅威

企業の製品やサービスに代わる製品やサービスがある場合、その存在を評価します。代替品の存在は顧客を奪い、利益率に影響を与えます。

これらの分析を通じて、投資家は企業の健全性、成長性、競争力などを理解し、適切な投資判断を行うことができます。

3.業種分析の基本

本章では、業種分析の基本について詳しく説明します。業種分析は大きく分けて、業種のマクロ環境分析と競争構造分析の二つの視点から行われます。

① 業種のマクロ環境分析

業種のマクロ環境分析では、業種全体を取り巻く大きな環境要因を分析します。具体的には、政治(Political)、経済(Economic)、社会(Societal)、技術(Technological)の4つの視点から分析を行うPEST分析が一般的です。

a.政治(Political)

この要素では、業種に影響を及ぼす政治的な要因を評価します。政府の政策、規制、税制などが含まれます。

b.経済(Economic)

経済的な要素とは、一般的な経済状況や業種特有の経済的な動向を評価します。これには、インフレ率、失業率、経済成長率などのマクロ経済指標や、消費者の購買力や信用状況などが含まれます。

c.社会(Societal)

この要素では、社会的な動向や変化を評価します。人口統計学的な要素(例えば年齢層や性別の分布)、文化的な要素(例えば消費者の価値観や嗜好)、社会的な問題(例えば環境問題や健康問題)などが考慮されます。

d.技術(Technological)

この要素では、業種に影響を及ぼす技術的な進歩や変化を評価します。新製品やサービス、製造プロセスの改良、新しいビジネスモデルなどが含まれます。

② 業種の競争構造分析

競争構造分析では、特定の業種の競争状況や市場構造を評価します。ここでは、ポーターの五力モデルが一般的に用いられます。

a.競争の脅威

その業種がどの程度競争環境に晒されているかを評価します。競争が激しいほど、業種全体の利益率は下がります。

b.供給者の交渉力

業種が供給者に対してどの程度の交渉力を持っているかを評価します。供給者の交渉力が強いと、製品コストが上昇し、業種全体の利益率に影響を与えます。

c.購買者の交渉力

顧客がどの程度の交渉力を持っているかを評価します。購買者の交渉力が強いと、製品価格が下がり、業種全体の利益率に影響を与えます。

d.新規参入の脅威

新規に市場に参入する企業が現れる可能性を評価します。新規参入者が増えると市場シェアが分散し、業種全体の利益率に影響を与えます。

e.代替品の脅威

その業種の製品やサービスに代わる製品やサービスがある場合、その存在を評価します。代替品の存在は顧客を奪い、業種全体の利益率に影響を与えます。

これらの分析を通じて、投資家は業種全体の健全性、成長性、競争状況などを理解し、適切な投資判断を行うことができます。

4.市場分析の基本

① 市場のトレンド分析

市場のトレンド分析は、市場全体の動向や将来性を理解するために行います。市場トレンドの把握のための主要な指標には以下のようなものがあります。

a.市場規模

市場全体の売上高や売上個数などで測定します。市場規模が大きいほど、その市場での競争が激しくなる可能性が高まります。

b.市場成長率

市場規模が時間と共にどの程度変化しているかを示します。市場成長率が高いほど、新規参入の機会があるかもしれません。

c.市場シェア

特定の企業や製品が市場全体の中で占める割合を示します。市場シェアが大きい企業は、その市場に強い影響力を持つ可能性があります。

d.マーケットサチュレーション

市場がどの程度飽和しているかを示します。飽和している市場では、新規参入や市場シェアの拡大が困難になる可能性があります。

② 市場のセグメンテーション

市場セグメンテーションは、市場をより具体的かつ管理可能なサブグループに分けるプロセスです。これは、特定のセグメントが他のセグメントとは異なるニーズ、嗜好、行動特性を持つ可能性があるため、製品開発やマーケティング戦略をより効果的に行うために重要です。市場セグメンテーションの基準には以下のようなものがあります。

a.顧客属性

年齢、性別、収入、教育水準などの個人的特性に基づいて市場を分割します。

b.地理的要素

地域、都市/地方、国などの地理的な位置に基づいて市場を分割します。

c.行動特性

製品の利用頻度、購入行動、ブランドへのロイヤルティなどの消費者の行動に基づいて市場を分割します。

d.製品の利用状況

製品の利用頻度、用途、使用場所などに基づいて市場を分割します。

③ 市場の成長ポテンシャル分析

市場の成長ポテンシャル分析は、市場が将来どの程度成長する可能性があるかを評価するために行います。ここで一般的に使用されるフレームワークがBCGマトリクスです。

BCGマトリクスは市場成長率と相対市場シェアの二つの軸で市場を4つのカテゴリーに分けます。

これらの分析は投資の意思決定を助けるために役立つだけでなく、企業自身が市場の状況を把握し、戦略を策定する上でも重要です。

5.おわりに:賢い投資家のための分析スキル

本章では、企業分析、業種分析、市場分析の基本について学んだ内容を総括し、それぞれの分析スキルがどのように投資決定に役立つかについて述べています。

以下のような分析スキルが、賢い投資家としての意思決定に重要な役割を果たします。

a.企業分析のスキル

企業の財務健全性を評価し、事業の競争力を判断するためのスキル。これにより、企業が将来にわたって収益を生み出し続ける能力を理解することができます。

b.業種分析のスキル

特定の業種の動向や競争状況を理解するためのスキル。これにより、投資対象となる企業が所属する業種が成長する可能性があるか、またその企業が業種内で競争力を保つことができるかを評価することができます。

c.市場分析のスキル

広範な市場の動向を把握し、市場の成長性や飽和度を評価するスキル。これにより、投資対象となる市場が将来的にどの程度の収益機会を提供できるかを理解することができます。

これらのスキルを組み合わせて使うことで、投資家は自分が投資を行う企業や市場が将来的にどのような状況になるかをより的確に予測することが可能となります。これが、賢い投資家が資本を効率的に配分し、最大のリターンを得るための基本的なスキルとなります。

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